「蜜柑ちゃん?」
「・・・え?」
自分をそう呼ぶ人は、今じゃ鳴海先生くらいだ。だがしかし、この声は鳴海先生の声ではない
ではだれなのだろう。
呼ばれた方向に顔を向ける
「か、なめ・・先輩・・・?」
「うん、そうだよ。やっぱり蜜柑ちゃんだ。久しぶりだね」
訳が分からない。
初等部に自分が通っていたなんていう事は先生方意外は知らないはずだ
「なんで、かなめ先輩・・・」
「僕の方が何で?だよ。翼たちがある時急に蜜柑ちゃんの話をしなくなったんだ。蜜柑ちゃんに何かあったのかと聞いてもそんな人は知らないって言われるしね」
本当にどういう事なのだろう。
自分に関わった全ての人物の記憶は消えているはずなのに
「教えて欲しい。蜜柑ちゃんに会えればその理由が分かると思ってずっと蜜柑ちゃんを探していたんだ」
「・・・・かなめ先輩、貴方も私の事を忘れているはずでした」
記憶がある人物に何を言っても無駄だろう
友人の、ましてや親友が自分で言うのもなんだが後輩である蜜柑を忘れるなんていう事態不思議に思うに決まっている
翼先輩だけでなく美咲先輩、メガネ先輩も同じようになっているのなら余計に、だ
「何でかなめ先輩が私の事を忘れていないのか分からないんですけど、私はみんなの記憶が無くなった頃、ある人と取引をしました。私の大切な人を守るために大切な人を失うという」
「・・・」
「みんなの記憶はその所為で失われたんです」
「まさか蜜柑ちゃん・・・その時期の日向棗くんの危険能力系から潜在能力系への移動は」
「私が、頼んだの。棗は、アリスを使うと辛そうで・・・」
皆が幸せならそれだけで良かった
だから、決意し、行動した
「君は、今まで危険能力系の任務をしてたんだね。ごめんね、蜜柑ちゃん。何もしてあげられなくて。ごめんね・・・」
「・・・かなめ先輩は悪くないっ!!ウチが、ウチが勝手にやったことやっ」
先輩、先輩が気にする必要はないから
ただあの病もちの先輩が今普通にこうして居てくれるだけで私は満足だから
「やっぱり、蜜柑ちゃんは関西弁の方が似合うね」
「えっ?」
腕を引かれると、腕の中に閉じ込められた。
かなめ先輩の顔を見ると、切なそうに微笑んでいる
「泣きたい時は泣くべきだよ。辛かったら、僕は覚えてるからこうやって慰めてあげるから」
「・・せん、ぱ・・い・・・ありが、とう」
あふれ出す涙を止めることなく存分に流す
先輩、ありがとう
先生以外の人で私を覚えている人に出会えるなんて思いもしなかったから
少しだけ気が楽になったような気がする
ありがとう、先輩