本独特の匂いが鼻につくこの部屋で、蜜柑はあるものを探していた。蜜柑が探している棚には、あきらかに蜜柑の読むような本は一冊も入ってなくて、それでも先ほどから蜜柑は必死に本を順番に目で追っていた

「・・・あ」

求めていた本が見つかったのか、声を漏らす。だがそれは蜜柑の身長にしてはすこし高い位置にあった。背伸びをして手をしっかり伸ばす。だけどその本はあと数ミリと言ったところで届かない。

「もう、ちょっとや」

「・・・これか?」

蜜柑の丁度左から人の気配がし、それは腕を伸ばしてきたかと思うと、蜜柑の見つめている先から、取ろうとしていた本をスッと取り出した。

お礼を言おうと思い、流れ作業のようにそちらの方向を向くと見慣れた黒髪の男の人、日向棗がそこにいた。

「な、つめ」

お礼を言うより先に吃驚の方が先だった。棗はこんなに身長が高かったのだろうか。そんな風に感じる

確かに、初等部の頃から目線が変わってしまったけど、自分がこんなにも苦労して取ろうとしていた本をあっさり取ってしまうなんて

「・・・お前、こんな本読むのか?」

今取った難しそうな本を見て心底不思議そうな顔をしながら、蜜柑に手渡す。

「宿題やねん。レポートかかなきゃあかんからなぁ・・・って棗も同じクラスやねんから同じ宿題やろ!?」

「しらねぇそんなもん」

「だめやんか、一緒にやろう。な?」

蜜柑は少し顔を上に上げて話しかける。そういえば、こうやって顔を上げないとしっかり目が合わなくなってしまったのは何時からだろうか。

「・・・棗、身長高すぎや!」

「突然、何言い出すんだよ」

言われた瞬間、棗が不思議そうな顔をした・・・もとい不機嫌そうな顔をしたのは言うまでも無く、バカじゃねぇのと今にも言いそうである。

「なんでウチが見上げなきゃあかんねん!」

蜜柑は不服そうに、文句を言う。棗はというと言われても対して気にする様子は無く、ただ見上げながらこちらを見てくる蜜柑を眺めている

「ちょっと前まで全然かわらへんかったのに、中学入学したら全然身長違うなんて反則や!」

「・・・この方が俺としては良い」

「なん」

なんでやと言おうとした瞬間、口を塞がれた。蜜柑は突然の事に驚き、顔を真っ赤にした

「キス、しやすいからな」

数秒唇に触れると、棗は満足そうに、ニヤリと笑う

蜜柑はその棗を見ると、赤い顔を耳まで真っ赤にして、顔を反らしながら、反論する

「な、なんやそれ・・・」

あぁ、なんでこんな何か企んでいるような微笑までもをカッコイイと思ってしまうのだろう。

思いっきり文句言ってやろうと思ったのに、彼の表情を見た瞬間思いついた文句は一気に飛び去ってしまった

「・・・ウチは別に全然良くないわ」

「さー。レポートだっけな」

「話を反らすな、ウチの話を聞けバカなつめぇ!!!」

蜜柑の反論を聞きながら、棗は無視して持った本を持ち、近くの椅子に腰をかける

当たり前のように、蜜柑は隣にすわると、最初のうちはグチグチ文句を言っていたがすぐに収まった

その収まった理由が、棗の言い分にすこし喜んでしまったのが悔しくて、蜜柑が自分と葛藤していたからだというのを棗が知るのは、まだ後の話





―――あとがき――――――――

いやもうどうしようもない。
私、キスシーン書くの嫌いというか苦手だったのになつみかんはどうもキス率高めという・・・なんてありきたりなんだ。まぁそれはこの際おいといて・・・
読んでくれてありがとうございました。