いろいろな事が重なり、やっと戻ってきた日常。こんな普通の事がどれほど幸せなのか、今になって思い知らされる。ただ学校に行くだけ。それだけでも満足だ。

目を覚まし、今ではもうすっかり着慣れた制服に腕を通す。そして、鏡を見ながら慣れた手つきで自信の髪に触れ、櫛を通す。真ん中で半分に分け、一つ目のゴムを髪の毛につけようとして、ふと手を止める。

『五年後のお前 髪おろせよ』

Zを追いかけて行った先で棗に言われた言葉が頭をよぎる。5年なんて歳月はまだまだ立っては居ない。というか一年も絶っては居ないのだが、どうもその言葉が気になり始める。

何でアイツはそんな事言ったんだろう。鏡に写る、自身をみながら考える。

『おろせよ その方がいい』

髪の毛を結ばずに、下ろしていたほうが似合うのだろうか・・・そう思い、半分に分けた髪を元に戻し、鏡を見る。結ぶ前の自分の姿など自分では何度も見ているが、どちらが似合うかというとやはり二つ結びの方がしっくり来るため、普段の生活では必ず二つ結びをしている。

物心ついた頃から二つ結びをするのが習慣になっていた自分にとって、普段髪の毛をおろすという行為がそもそも頭に入っていなかった。

自分の髪の毛をおろした姿を見てみるもののの、やはり2つ結びをしている自分の方がしっくり来る。

それでも一度気になりだしたことというのは簡単には止まらず、いざ結ぼうとすると手が止まる。だがそうしているうちにも時間は待ってはくれなくて、蜜柑はあわてて自室を飛び出した。



「おはよー・・・」

「おはよう蜜柑ちゃ・・あれ、今日は髪の毛下ろしてるんだー。かわいー」

野乃子ちゃんとアンナちゃんが挨拶をしに寄ってきた。

「あ・・・じ、時間が、結んでる時間がなかったんよ。こっちきてから結ぼうかなーって・・・」

たしか、他のゴムをポーチに入れておいたはず。蜜柑は離しながら、バッグの中を手探りで探す。

だがしかし、何時もなら見つかるポーチは不思議と見つからない。

「・・・あれ?」

「どうしたの?」

手探りをやめて、バッグの中に入っている教科書等を一つ一つ取り出しながら探す

「髪ゴム、忘れてきたみたいや。いつもポーチにいれとるんやけど、そのポーチが入ってないんや」

なんや落ち着かへんなぁ・・・

そう思いながらも、忘れてきたのだから仕方が無いと、自分の席に座る。

「ねぇ蜜柑ちゃん。髪の毛触ってもいい?」

「あ、ええよ。でも別にウチの髪の毛触ったってなんの特にもならへんよ?」

「そんな事ないよー。うわーサラサラだねぇ」

野乃子とアンナは蜜柑の髪の毛に触れると、気持ちいだの羨ましいだの、口々に言い放った

「あ、そうだ」

そのうちに、思い出したように野乃子が自分の席に一旦戻ると、自分のバックを持ってまた戻ってきた

野乃子は嬉しそうにバッグを空けると、雑誌を一つと、ポーチを一つ取り出した。アンナは自身のポーチを開けると、いくつかの可愛らしい髪ゴムを取り出した

「ねー、蜜柑ちゃん。この髪型やらない?」

何何?と、蜜柑だけでなくアンナも覗き込む。そこには、沢山の髪型が並べられていて、その中でもアンナは高い位置でクルッと丸められているお団子スタイルを見て言う。

「それならこっちの二つお団子もかわいいよね〜」

アンナが隣の写真を指差して言う。

「ウチにはにあわへんよー」

蜜柑は手を前に出して、無理やと二人に言う。二つ結びがとうもしっくりくる自分は他の髪型が似合うとは思えない

「でも、蜜柑ちゃんってクリスマスとか髪型違ってたよね」

「そういえばそうやったなぁ・・・」

「あの髪型、可愛かったよね。だから絶対この髪型も似合うと思うんだ」

野乃子は嬉しそうにそう語る

「でも野乃子ちゃんが自分でやろうとおもってたんやないの?」

「そうだけど、自分じゃ上手くできないし・・・」

「じゃあウチがや」

「だから、蜜柑ちゃんちょうど髪の毛下ろしてるし、弄ってもいい?」

蜜柑が野乃子の髪型を変えてあげようといおうとしたのだが、上手い具合に話を逸らされる

そして、気づいた時には髪の毛を上に上げられ、綺麗なお団子が頭に乗っていた

「うわー思ったとおり」

「かわいー」

野乃子とアンナは口々に言う

だがしかし、蜜柑はどうしても髪の毛に違和感が付きまとい、不思議な感覚だ

「ほたるぅ〜ウチ、どう?変やない?」

「変」

「えっ!?」

結んでる途中に教室に入ってきた蛍に蜜柑は声をかける。

「嘘よ。かわいいわ」

「ほんま!?」

蜜柑はキラキラと目を輝かせながら、蛍に抱きつく。

離れなさいよと蛍は言っているが本心ではないし、こんなかわくして、害虫がついてしまうかもしれないと思う蛍は、今日は抱きつかれたままで居る。

「ほらー。蜜柑ちゃん、似合ってるんだって」

「他の髪型も蜜柑ちゃんなら似合いそうだねー。編みこみとか」

二人はそうやって髪型談義をはじめてしまった。

蜜柑は落ち着かなかったが、せっかくやってくれたのだと思うと、そのままの髪型で居る事にした

口に出しては言わないが、似合うと思ってる人は沢山いるみたいで、蜜柑は気づかないようだったが、視線がいつもより多く集まっていたのに蜜柑は気づかなかった

「棗さん、流架君」

棗の取り巻きたちが、棗と流架が教室にやってきた事でドアの近くに集まってくる。

蜜柑は蛍に抱きついて、話をしていて棗たちが教室に来たのに気づかない

「はい、席ついてねー☆」

鳴海先生が来ると、皆は席に戻っていく。

「あれ?蜜柑ちゃん今日は髪型ちがって可愛いね〜」

「ほんま?野乃子ちゃんがやってくれてん」

鳴海先生の言葉に、蜜柑は嬉しそうに返す。

それからニコニコしながら、蜜柑は自分の席に座る

「あれ、棗に流架ぴょん何時来たん?おはよー」

「お、おはよ・う。佐倉、今日はか・・髪の毛上げてるんだね」

「そうなんや!野乃子ちゃんが今やってくれてん」

「・・・・」

蜜柑は相変わらずニコニコして、屈託の無い笑顔で二人に挨拶する。

棗はなにだか気に入らないと言ったような目で蜜柑をずっと見ている

「なんや、棗!挨拶くらいしてもええやろ!?」

蜜柑は一言文句を言うと、何も言わなくなった

それは、もともと髪の毛を結ばずに学校に来てしまったのは棗の言葉を思い出してしまったからで、たしかに今は上にあがってはいるが、髪の毛について何も言ってくれないのが少し悲しかったからだ

なにかしら言って欲しいと思ってしまっていた

「お前・・・」

「・・・なんや」

「ブスがよけいブスになってるぞ」

蜜柑はその言葉に、カチンと来て何か言ってやろうと口を開く。だが何か言おうとして、やめた。

なにより、そんな風に言われて普通にショックを受けてしまった

皆に可愛いと、似合うといわれて少し調子に乗っていた

別に可愛いと、似合うと棗に言われたいと思っていたわけではないけど、おろした方が良いと言う棗にどこか期待をしてしまっていたのかもしれない

それからの授業は上の空で、いつもは勉強が出来ないなりにもノートを取っていたのに、今日ばかりはノートを取る気力も無くなっていた

「はぁ・・・・」

先ほど野乃子にやってもらった髪の毛を触りながら、蜜柑は力なくため息をつく。棗と反対方向を向いてはいたが、棗はそれに気がついた。

そんな蜜柑をみながら、棗は自分の方向を少しも見ない蜜柑にすこしイラついていた。


こっち向けよ


そう思うが、口には出ることが無い

先ほど蜜柑にはブスとは言ったが、本心ではない。単に、嫉妬したのだ。

自分が登校してきても気づかず親友の蛍のところへ行き、髪の毛は友達にやってもらったという事実に嫉妬していた。

「野乃子ちゃん、ごめん。ウチにはやっぱこの髪型あっとらんみたいや。とれてもうた」

一時間目の授業中ずっとお団子を気にして触っていた蜜柑は、途中で自分からゴムを外していたのが見えた。

「ありがとうな、ゴムかしてもろうて」

蜜柑はそう言うとそのまま教室の外へ出て行く。次の授業は移動教室でもなくそのまま授業なのに、外に出て行くなんて珍しいなと思いながらも棗はその場所から動かない


トイレだろうか


そう思うが、いくら待っても蜜柑は教室に戻ってこない。そのうちに二時間目は始まってしまった

二時間目は鳴海で、蜜柑が居ない事を不思議そうにしていた

「あれ?今日は棗君が居るのに蜜柑ちゃんがいないね。どうしたんだろう。蛍ちゃん、蜜柑ちゃんは?」

「・・・・知らないわよ。蜜柑の行動を私は全部把握していないもの」

鳴海が心底吃驚したといったような表情で蛍に聞くが、蛍も知らないと言い切った

だがその蛍は一瞬棗のほうをむくと勢いよく睨みつけてきた

『蜜柑泣かせる奴は許さない』

その目は思い切りそう言っていて、その蛍の手をよく見ると、いろいろな武器らしきものが握られている。

どこからだしたんだか・・・と棗は思うが、そんなこと思ってる暇はないと思うと、棗は無言で立ち上がるとそのまま教室から出ようとする

「あれ〜棗君。どこに行くの?蜜柑ちゃんさがしてきてくれ」

「んなわけねぇだろ。てめーの授業がつまんねーだけだ」

そうだなんて、正直には言わずに教室を出る。出るとそのまま外に出て、周りを見渡す

何時も探してくれるのは蜜柑のほうだから、どこにいるかなんて検討がつかない。

仕方なく歩き、癖のようにいつも自分が行く場所に行く。

普段、よく自分が来て眠っている木をみつけると底によりかかっている人物を発見する。

「・・・蜜柑」

呼びかけに蜜柑は答えない。棗が普段眠るその定位置で蜜柑はすやすやと寝息をたてている。

「みか・・」

眠っている蜜柑に手を伸ばそうとして手を止める

瞳から涙の後が残っているのがはっきりと見えたからだ



棗は隣に腰を降ろすと、蜜柑をみつめる。何時もとは違う髪形に、戸惑う。先ほどの髪の毛をあげた彼女もそうだったが、何時もの彼女より可愛さが増していて・・・

蜜柑の髪の毛に触れると、優しくキスをする。

「似合ってる・・・蜜柑」

そう言うと、蜜柑の頬はみるみる赤くなっていく

「・・・みかんっ・・・起きて」

「どうせ、嘘なんやろ・・・?ウチ、嘘は聞きとうない」

「何の事・・・」

「どうせ似合わへんのやろ!?ウチかて違う髪形が似合わない事くらいわかっとる!!」

蜜柑は涙目になりながら棗に言う。

『ブスがよけいブスになってるぞ』

何時ものように憎まれ口を叩いてから蜜柑は元気がなかった

棗は今更ながらに後悔する

自分が恥ずかしかったから可愛いと、似合ってると言えなかったことを後悔した

「・・・嘘じゃない。似合ってる。さっきのも、今も」

「っ!!」

思い切り抱きしめて、蜜柑に言う

「なら・・・なんでなん?何で似合わんって」

「お前、俺が来た時気づかなかっただろ?」

「・・・・」

「嫉妬・・・したんだよ」

蜜柑に自分の顔が見られないように抱きついたまま話をする。今の自分は絶対しょうもない顔をしていると棗は思う

「お前、俺が教室来た時気づかなかっただろ?」

「確かに、そうやな」

「それに、お前の髪の毛触っていいのは俺だけだ」

「・・・な、つめっ!」


蛍に抱きつき、野乃子に髪の毛を触られたのに対して嫉妬するなんて、どうしようもない

「で、でも・・・野乃子ちゃんは女の子やで?」

「・・・・ばーか。お前、他の奴等も数人お前の事見てたの気がつかないのかよ」

その言葉を聞いて、蜜柑はうれしそうににっこりと微笑んだ


「そろそろ、教室いかなあかんかな?棗もど」

「いいだろ、別に」

「なんでやっ授業はうけないと」

「今はまだ、この髪型を見ていいのは俺だけだ」

棗にこういわれると蜜柑は嬉しそうに、戻りかけた足を止め、再び棗の隣に戻った








―――あとがき―――――――

長い上に良く分からん話でした。
すいません勉強します。
頑張ります

↓におまけ。そしておまけも良く分からない(最悪)




そのままサボりを決め、二人は木陰で休んでいた

「何で今日に限って髪型変えたんだよ」

「ちょ、ちょっとな・・・」

「俺には言えないことか・・・?」

棗のその言葉と表情が蜜柑には寂しそうに見えた

「ち、ちがうねん。ただ、棗前に五年後は髪の毛降ろせって言ったやろ?髪の毛結ぼうとした瞬間それ思い出してな、なんで棗はこう言ったんやろうって考えて・・・。まだ五年後なんて数年以上も先の話なのに、言葉が気になって結ぶか結ばないかまよってしまってん」

蜜柑のそんな嬉しい言葉に棗は思わず顔を綻ばせる

自分の言葉をそんなに気にしていてくれたのかと

「まよっとるうちに、時間きてもうて、そのまま学校きたっちゅーわけや。それに、ゴムは部屋に忘れてきてもーて、それで野乃子ちゃんが結ばないって言ってくれ」

蜜柑が全部言い終わる前に棗は蜜柑に触れるだけのキスをする。


そんな蜜柑が、たまらなく愛おしい。