蛍は再び自分の部屋に蜜柑を招き入れると暖かいココアを入れ、蜜柑に手渡した

「少しは落ち着いたかしら?」

「うん」

さっき調子が悪かったのは妊娠の所為で情緒不安定になっていて、その所為で熱が上がり体調不良を及ぼしていたのだという事で別に平気だそうだ

「・・・まさか妊娠だなんて」

蛍はそういうと、自分用に入れた珈琲を飲む。蜜柑が何も言ってこないのだから、とりあず言う気になるまで待とう

「ウチ、この子産みたい」

長い間何かを考えていた蜜柑は口を開くとそう言った。蛍はそれを何か言い返すことも無く、聞く

結婚するかどうか分からない彼女に産ませるのは正直反対だが、これで日向君もきっと結婚に踏み込むだろうと考えたからだ

「でもな、ウチ結婚しーひん」

「何言ってるの、蜜柑」

棗は自分を想ってくれている。それだけでいいと蜜柑は思う。

棗の命は長くないかもしれない。それに悩んで、自分の幸せを願ってのためだったのなら、棗は絶対産まれてくる子に対しても気を使う。

「・・・棗、絶対産まれてくる子にも気ぃつかうやろ?ウチは棗を苦しめたくないんや」

「・・・・」

蛍は自分と蜜柑の考えの相違に驚き、何もいえないで居た

蜜柑は別れを選択し、棗を開放してあげようとしていた

「棗は絶対いわへんけど、結婚するならおろさなあかん気がするんや。ウチのこと気にかける棗やから、生まれてくる子にまで棗は気にかけてしまう。だけど、ウチは絶対産みたい。この子は棗との子だから」

「でも蜜柑、せめて日向君に相談してからでも」

「蛍ごめんな。ウチでも決めたんや」

蜜柑の意思は蛍の考えていた蜜柑とは遥に違っていた

そしてその表情は、一児を守ろうとする母親の表情

「・・・分かったわ。蜜柑がそこまで言うのなら私はもう反対しない」

「ありがとうな、蛍」

「何かあったら言ってきなさい?手伝いくらいならするから」

「ありがとう、ありがとうな。蛍、大好きや!」

蜜柑の表情は悩んでいたその時より晴れ晴れとしていた

蜜柑なりに答えを出して、悩みから開放されたのだろう。あぁなんて素敵な女性なんだろう

蛍は親友の彼女にそう思わずいられなかった