突然蜜柑はデートに誘ってきた

いつもだったら「買い物に行かへん?」とかそうやって誘ってくる蜜柑だったのだが、「デートしいへん?」なんていわれたのは初めてだった

違和感はあったが、断る理由は無く

「どこ、行きたいんだ」

返事を返した。そう言うと蜜柑は微笑んだ。

「・・・北の森」

そう言った蜜柑の顔は何時もの無邪気なそれとは違うような気がした

だけど別に何かがあったわけではないと解釈する

「じゃあさっそく、行こうな」

「・・・あ、あぁ」

まさか今からだとは思って居なかったためにビックリした。先ほどまで授業を受けていて、放課後の教室にいたから今からでは外に出ている時間は全然無いだろう

「・・・ここ、思い出の場所や」

「・・・・」

北の森では本当にいろいろあった。棗から出されたテスト、ベア、ジャイアントピヨ・・・そして棗がよく寝ていた木。さまざまな事があった

「ウチ、棗に会えてよかった」

「・・・・俺も」

「だから棗・・・別れよ?」

「・・・っ!」

心臓が止まるかと思った。蜜柑の表情から見て、もう決意は固いのだと感じた

周りの人たちが結婚する中で、将来の話とかを一度もしなかった自分に愛想をつかされたのだろうか。

『棗に会えてよかった』

それは蜜柑が自ら選んだ事で・・・このまま別れた方が蜜柑は幸せになれるだろうか

「・・・分、かった」

一言そう返す。嫌だ・・・嫌だ嫌だ嫌だ!

俺は蜜柑が好きだ!どうしようもなく好きでたまらない思いはあふれ出しそうになる

「・・・ありがとう、ありがとうな」

蜜柑の瞳からは涙が流れ出ていた。それでも笑う蜜柑に声がかけられない

「・・・・っ!」

胸が締め付けられる。なんで・・・蜜柑は俺と別れたいんじゃないのかよ?

俺は嫌だ。蜜柑がどうしようもなく好きだ。まだずっと隣にて欲しいとどうしようもなく思う

わけも分からず放心状態で立ち続ける

蜜柑はそんな顔を見せまいとするようにすぐに後ろを向き、反対方向に向かって歩き出してしまった

蜜柑蜜柑、みかん・・・・!

それでも、結婚するとなると躊躇う。自分の命は多分もう長くない。だったら此処で別れた方が蜜柑にとっては良いだろう

このままずるずる付き合って卒業したとして、蜜柑を自分の力で幸せにしてあげられる自信がなかった

愛してる、蜜柑。


気づいた時に棗の瞳から涙が流れ出ていた

「蜜柑・・・!」

もう姿が見えなくなってしまった蜜柑に向かって、呼ぶ。その呼び声は蜜柑に届く事無く消え行く

何も考えられなくて、棗はしばらくその場から歩き出す事ができなかった。






これでよかったんや

『・・・分、かった』

・・・嫌われた。

確かに一人で産んで育てると決めた。

それでも少し期待してた自分が居た。別れようと言ったとき、嫌だと言ってくれるものだと期待していた

愛している。本気で

きっともう棗以外の人は好きになることはできないのだと思えるほど好きになっていた

棗があそこで少しでも否定的な言葉を漏らしていたら

「・・・なつめっ!」

しゃがみ込み、止まらぬ涙を流す。棗に泣き顔を見られたくなくてあの場に居られなかった

自分を心配して結婚に踏み出せない棗を人づてにでも知ってしまったから、もう引き返せない

それよりもなによりも、この子を産みたいと真剣に思う

棗が何も言ってこないのだから自分も内緒でこの子を産もう。内緒のほうが、棗はきっと苦しまない

「・・・これで良いんや」

棗があそこで引き止めてくれたのなら・・・そう思うけどきっとそれでも自分はこの子が産みたくて仕方が無いのだろう



これからは強くなるから

蜜柑は部屋に戻ると思い切り泣いた

最近こんなことばかりだけど、今日までだから




すれ違う、想い



明日からはちゃんと笑うから


だから今だけは・・・・